なぜインシデントが起こるのか
インシデントは私たち看護師なら誰でも経験したことがあるのではないでしょうか?
インシデントは大なり小なり患者さんに不利益があるため、起こした当事者としても、落ち込んだり何度も考えてしまったりと、非常にストレスのかかるものの1つとなります。
インシデントやアクシデントが起きたときに、最終的に露見させた人にスポットライトが当たりがちになります。
確かに、単純にある行為だけが原因となる場合もあります。
しかし、そのインシデントを起こしてしまった原因の方にも問題があることを忘れてはいけません。
ここで事例を基に考えてみましょう。
看護師Aさんは5年目の看護師です。今日で7日間の連続勤務で残業も重なっており、毎日帰宅が20時を過ぎています。ある患者さんに対して、医師からアセリオ100ml0.5袋を点滴するように指示が出ていました。他スタッフとともに、点滴をダブルチェックして準備した後、患者さんにアセリオ100ml1袋を点滴しました。
このインシデントの原因となるのはどんなところでしょうか。
薬剤を投与する際に、6Rの確認やダブルチェックを徹底しましょうとよく言われると思います。
Aさんは6Rがどういうことなのか、ダブルチェックをしなければならないことについて理解しています。しかし、実際に6Rやダブルチェックを効果的に行うことができなかった可能性があります。またAさんだけでなく、ダブルチェックをしたスタッフも効果的なダブルチェックを行えなかったと思われます。
大抵のインシデントレポート検討では、ここで対策として6Rの徹底、ダブルチェックの徹底、などのような文言のみになりそうですね。
果たしてそれが最終的な原因なのでしょうか。
Aさんは、連日勤務だけでなく、毎日残業で帰りも遅くなっており、かなり疲労が溜まっていた可能性が高く、判断力が低下していることが考えられます。その勤務を強いられるような劣悪な労働環境に問題があるでしょう。
また、6Rやダブルチェックがなぜうまく機能しなかったのかについても考慮する必要があります。
ダブルチェックは安全機能として行われる反面、適切に行われなければ社会的手抜きとなり、なんの効果もないただの作業になることもあります。
6Rも、行うことがベストだと分かっていても、正しく目的を捉えることができている看護師はどれだけいるでしょう。
医師によっては、思考過程を記録に記載していることもありますが、コミュニケーションが取れなかったり、記録をおざなりにしている場合は、なぜその薬剤が行われるのか、はっきりとよくわからないままに実施させられることもあります。
また、6Rの確認方法についても、何をどのように確認することで6Rの確認ができているという意識を持っていなければ、言葉だけが独り歩きしてしまいます。
「ダブルチェックして」「6R確認して」と伝えられて、同じ施設で教育された看護師でも、何人が同様の確認方法を行うことができるでしょうか。
これらの確認方法は、人によって確認方法が違う場合があり、特に先輩看護師を真似して確認しているだけの場合、その先輩看護師が正しい方法を身に着けていない限り、誤った方法を後輩看護師たちに伝承していくことになります。
病院側としては、1つの言葉から全員が同じ方法を連想できていない可能性を考慮し、「確認して」というのではなく、具体的な確認方法を聞き取りし、正しいものなのかどうかを探る必要があります。
私たちが人間である限り、忘れたり間違えたりするため、インシデントは必ず起きる。必ずしも個人の能力のせいではなく、教育に不備があること、病院のシステムに不備があること、強いストレスやプレッシャーのある労働環境にも原因がある。
コメント